〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-Z』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻四) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2016/06/16 (木) 

 ちょう

「初音」 の帖に引きつづき、六条の院の晩春から初夏までの物語りである。
六条の院の春の御殿は、三月の二十日を過ぎてもまだ逝く春が足をとどめ、春たけなわの風景であった。玉鬘が六条に院に引き取られ早くも半年が過ぎようとしていた。
源氏は新造した龍頭鷁首りゅうとうげきしゅ の船を春の御殿の池に浮べ、人々を¥招待して撩乱の春を惜しみ、音楽の会を開いたりしている。
たまたま秋好む中宮も里帰りして来られたので、中宮側の女房たちを船で御殿に招き、盛大な遊園会を催す。もちろん音楽はつきもので、夜を徹して人々は愉しんだ。
翌日は中宮のお邸で法会があるので、人々はそちらへ移る。紫の上から、鳥と蝶に分けて衣裳をつけさせた可愛らしい女童に供華を持たせた船で送り込む。音楽に合わせて女童の鳥や蝶が可愛らしく舞うのも見物であった。
六条の院のこの世ならぬような栄華の日々がつづく中で、玉鬘の姫君は、次第に垢抜けて美しさと魅力を増す。源氏の実の娘と思って、内大臣の子息の柏木の中将まで恋文を寄こす。夕霧の中将は、生真面目に、実の姉と思って、奉仕しようとする。
苦労して来たせいか、玉鬘は六条の院の口うるさい女房たちとも上手くつきあってゆく。玉鬘への求婚者は次第に増え、玉鬘目あてに六条の院には若い公卿たちが集まるようになる。
源氏は面白がって、恋文の批評をしたり、人物の品定めをするが、婿選びに慎重である。実は自分が日と共に玉鬘に惹かれ、いっそ実父の内大臣に打ち明けて、自分も求婚者側に廻ろうかとさえ思う。
源氏の弟の兵部卿の宮を一番最適な候補者とは思うが、妻を亡くした宮には愛妾が何人もいるようだからと難癖をつける。
熱心な髭黒の右大将は家柄もいいし、将来性もあっるが、北の方が年を取ってきたときの、極度のヒステリーなので厭がっているから面倒だと、マイナス点がつく。とにかく誰にも玉鬘をやりたくない心境になっているのだ。
紫の上は察しがいいので源氏とのちっとした会話から、源氏が玉鬘に対して恋愛感情を抱いていることを知る。
玉鬘に逢う度、源氏は心を抑えきれなくなって、それとなく恋心を匂わせるが、女の方は一向気づかない様子なので、ため息をもらすばかりである。。
ついにある日、玉鬘があんまり夕顔に似て見えたので、源氏はたまらなくなり、玉鬘の手をとって、
「あんまりお母さまに似ているので、気持を抑えられなくなってしまった。わたしをあまり嫌わないで下さい」
と打ち明けてしまう。玉鬘は思いがけない事態に呆れ果てて、情けなくおびえ震えている。源氏は図に乗ってますますかき口説く。
そうしたある日、雨が止み、月がさし昇り月光が部屋の中まで差し込んでいた。女房たちはなんとなく遠慮してあたりに誰もいなくなった。源氏はこんな好機はないと、するりと衣服を脱ぎ、玉鬘の横に近々と添い寝してしまう。これはもうただならぬ事態である。そのまま、源氏は事に及ぶつもりだったが、玉鬘があんまりびっくりして身を堅くして抵抗したので、それ以上のことは出来なくなってしまった。
そてでもくどくどと言葉を尽くしてかき口説き、女房たちに怪しまれないうちに出て行った。その時、
「ゆめゆめ、人にこのことを悟られないように」
と注意したのは、何とも呆れた親である。
玉鬘は思いもかけなかった源氏の横恋慕に、思い悩む日が始まる。
読者としては、玉鬘の身の上がどうなってゆくかと物語の先が期待されてならないところである。

源氏物語 (巻四) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ