二条の院においでになりますと、若紫の姫君が、とても可愛らしく、まだ子供っぽい御様子ながらこの上なく美しくていらっしゃいます。同じ紅にもこんな優
しい色があるものかとつくづく眺められるのでした。無地の桜の細長ほそなが
をしなやかに着こなし、あどけなく無心な様子でいらっしゃるのが、言いようもなく可愛らしいのです。 古風な祖母君のお躾で、お歯黒はぐろ
も染めていなかったのを、源氏の君がはじめてお化粧をおさせになりましたので、眉がくっきりと際立ってきたのも、可愛らしく美しく見えます。 「自分の心からとはいえ、どうしてこう次々煩わしい女の縁にかかずらうのだろう、こんないじらしい人を捨ておいて」 とお思いになりながら、いつものように、若紫の姫君と、雛遊びをなさいます。 姫君はお絵描きなどして彩色していらっしゃいます。何でもお上手におもしろがって気の向くままに描き散らされるのでした。源氏の君も描き添えておあげになります。髪のたいそう長い女の絵をお描きになって、鼻に紅べに
をつけて御覧になると、画の中の人物でも厭気がさすのでした。 源氏の君は御自分のお顔が鏡台に映っているのが、わらながら美しいのを御覧になられて、御自分で紅を鼻の頭に塗り付けて彩いろど
ってごらんになりました。こんな美しいお顔でさえ、紅い鼻がついていてはみっともなくなります。 姫君はそれを見て笑いころげていらっしゃいます。源氏の君が、 「わたしが、こんな変てこな顔になったら、どうかしら」 とおっしゃると、 「まあ、いや」 と、ほんとうに紅が染みついたら大変と、とても心配そうにしていらっしゃるのです。源氏の君は、わざと拭く真似だけして、 「さあ大変、どうしてもとれない。つまらないいたずらをしたもんだ。帝みかど
が何とおっしゃるかしら」 と、真面目くさっておっしゃいますと、姫君は赤鼻の姫君をとても可哀そうだとお思いになって、側に寄って来て拭いておあげになります。源氏の君は、 「平中へいちゅう
の話のように、この上墨をつけないで下さいね。赤いのはまだ辛抱出来るけれど、鼻が真っ黒になったらどうしよう」 とふざけて冗談をおっしゃいます。そんなおふたりの御様子は睦まじい御夫婦のようにお見えになるのでした。 日がたいそう麗うらら
かなのに、いつからともなく一面に霞み渡っている木々の梢の、花の咲くのが待ち遠しい中にも、梅ははや、蕾もふくらんでほほえみかけているのが、とりわけ目につきます。階隠はしがくし
のもとの紅梅は、毎年いち早く咲く花で、もう色づいています。 |