〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part W-W』 〜 〜
==源 氏 物 語 (巻一) ==
(著:瀬戸内 寂聴)
 

2015/12/18 (金) 

ははき  

「帚木」 「空蝉」 「夕顔」 とつづく三帖は、すべて源氏十七歳の出来事である。この当時、源氏は近衛の中将になっている。
この数年間で、少年はすっかり成長して、一人前の男になっている。
「源氏物語」 を読む時、まず頭に入れておかなけらばならないのは、当時の年齢感覚が現代とは全く違うといことである。十二歳の少年rと十六歳の少女が結婚するのが当然とされた時代では、十七歳は今でいう青臭いティーンエイジャーではなく、宮廷の護衛兵として、中将もつとまる成人扱いなのである。
「源氏物語」 は、後宮に仕えている女房が語るという設定で書かれている。
源氏がすでに、恋愛の道にかけては評判のプレイボーイになっていることを示している。語り手は、そんな『秘密にしている内緒ごとを書きあばくのは、気がふけると言いながら、これから書くものが、源氏の 「すきごと」 つまり情事の話しに尽きることを白状する。巧妙な書き出しで、読者はこれだけで読みたい好奇心をそそられる。
この帖に有名な 「雨夜の品定め」 と称される話が据えられている。
長い五月雨さみだれ の一夜、宮中で物忌みのため籠っている源氏の宿直所とのいどころに、頭の中将、左馬さまかみ 、藤式部のじょう の三人が集まり、女の品定めが始まる。
それぞれ我こそはと自任している女蕩おんなた らしが、夜を徹してとっておきの経験談や、打ち明け話、様々な女の滑稽話から、はては恋愛論、女性論へと話題は展開していく。
作者が女であることを忘れさせるほど、この座談会は面白い。
この中に頭の中将の思い出話しとして、子までなしたのに、ふっと行方をくらましてしなったおとなしい女の話が出る。これが後の夕顔だという伏線になる。左馬の頭の話に、女を上、中、下の階級分けにして中流の女にこそ、掘り出しものがあるというのも、次の帖の空蝉の伏線になっている。
妻は子供っぽい無邪気な女を、好みの女に育てていくのがいいという説も、若紫の伏線と言える。
また、この話にはほとんど加わらない源氏の心の中には、すでに藤壺との不倫の恋が棲みついていることも匂わせている。
その翌晩、源氏は方違えに中川の紀伊かみ の邸へ行き、紀伊の守の父の若い後妻、空蝉に逢い、無理に犯す。源氏の初めて知った中流のこの女は、思いがけない自尊心を見せ,手きびしい抵抗をみせる。

うつ  せみ
空蝉の弟の小君こぎみ を、文使いとするため源氏は可愛がる。
一度は心ならずも源氏に犯されたが、空蝉はその後、きびしい態度で寄せつけない。思い切れない源氏は夏の夕闇にまぎれて、紀伊の守邸に忍び込む。小君の手引きで空蝉の寝所に導かれたが、それを察した空蝉は、薄い肌着だけつけ、身ひとつで危うく逃れ去る。一緒に寝ていた紀伊の守の妹の軒端にきばおぎ を空蝉だと思い、まちがって契った源氏は、空蝉の脱ぎ残した蝉の抜け殻のような薄いきぬ の小袿を持ち帰り、残り香をなつかしむ。
拒みながら、空蝉は心の中では源氏が忘れられなく、切なく、単身で赴任先にいる老いた夫の伊予いよすけ への、罪の苛責に苦しむ。
源氏物語 (巻一) 著:瀬戸内 寂聴 ヨリ
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