「帚木」
「空蝉」 「夕顔」 とつづく三帖は、すべて源氏十七歳の出来事である。この当時、源氏は近衛の中将になっている。 この数年間で、少年はすっかり成長して、一人前の男になっている。 「源氏物語」
を読む時、まず頭に入れておかなけらばならないのは、当時の年齢感覚が現代とは全く違うといことである。十二歳の少年rと十六歳の少女が結婚するのが当然とされた時代では、十七歳は今でいう青臭いティーンエイジャーではなく、宮廷の護衛兵として、中将もつとまる成人扱いなのである。 「源氏物語」
は、後宮に仕えている女房が語るという設定で書かれている。 源氏がすでに、恋愛の道にかけては評判のプレイボーイになっていることを示している。語り手は、そんな『秘密にしている内緒ごとを書きあばくのは、気がふけると言いながら、これから書くものが、源氏の
「すきごと」 つまり情事の話しに尽きることを白状する。巧妙な書き出しで、読者はこれだけで読みたい好奇心をそそられる。 この帖に有名な 「雨夜の品定め」
と称される話が据えられている。 長い五月雨
の一夜、宮中で物忌みのため籠っている源氏の宿直所とのいどころに、頭の中将、左馬さま
の頭かみ 、藤式部の丞じょう
の三人が集まり、女の品定めが始まる。 それぞれ我こそはと自任している女蕩おんなた
らしが、夜を徹してとっておきの経験談や、打ち明け話、様々な女の滑稽話から、はては恋愛論、女性論へと話題は展開していく。 作者が女であることを忘れさせるほど、この座談会は面白い。 この中に頭の中将の思い出話しとして、子までなしたのに、ふっと行方をくらましてしなったおとなしい女の話が出る。これが後の夕顔だという伏線になる。左馬の頭の話に、女を上、中、下の階級分けにして中流の女にこそ、掘り出しものがあるというのも、次の帖の空蝉の伏線になっている。 妻は子供っぽい無邪気な女を、好みの女に育てていくのがいいという説も、若紫の伏線と言える。 また、この話にはほとんど加わらない源氏の心の中には、すでに藤壺との不倫の恋が棲みついていることも匂わせている。 その翌晩、源氏は方違えに中川の紀伊き
の守かみ の邸へ行き、紀伊の守の父の若い後妻、空蝉に逢い、無理に犯す。源氏の初めて知った中流のこの女は、思いがけない自尊心を見せ,手きびしい抵抗をみせる。
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