「
『あれからしばらくは、更衣の死が夢かとばかり思われて、ただ夢の中をさ迷っているような茫然とした心地であったが、ようよう心が静まるにつれ、かえって覚める筈もない現実でったと思い知るにつけても、耐えがたい悲しみが一体どうしたら慰められるのだろうと語り合う相手さえない。せめてあなたと話したいので、何とか内密に宮中へ来て下さらぬだろうか。若宮が気がかりで、とかく涙がちなところに頼りなく暮しているのも、どんな様子かと心配で可哀そうでならない。何はともあれ、早く、来て下さい』
などと、帝はお
終
いまではきはきと仰せになれず、涙にむせ返られながら、それでも人に、あまりにお気が弱いと思われはしないかと、人目を
憚
はばか
られておいでのようにも拝されるのです。あまりにおいたわしくて、よくは承ることも出来ないまま、退出して参ったのでございます」
と言って、命婦は帝のお手紙を差し上げます。
「涙で目も見えぬ有様ですが、帝の畏れ多いお言葉を光にして拝見させていただきます」
と言って、母君はお読みになりました。
「時がたてば、少しは悲しみもまぎれるようになるだろうかと、その日の来るのを待ちながら暮しているのに、月日がたつほど、いっそう悲しさは忍びがたくなるばかりなのは、どうにも
術
すべ
のない事です。幼い人がそうしているかと思いやりながら、あなたと一緒に育てられないのが心配でならないのです。今となってはやはり、このわたしを亡き人の形見と思って、宮中に来て下さい」
などと、こまやかに書いておありになるのでした。終わりに、 |