ごく ちゅうさく
武市 半平太
1829 〜 1865


はな清香せいこう ってあい せられ

ひとじん ってさか

ゆう しゅう なん ずべけんや

ただ 赤心せきしんあき らかなる
花依清香愛

人以仁義榮

幽囚何可恥

只有赤心明

(通 釈)
花は、その清らかな香りによって人に喜ばれ、人は、仁義によって、人の輝きを増していくものである。
いま、私は獄に繋がれてはいるが、少しも恥とは思っていない。なんとなれば、私の行為は、偽りのない忠義の心だけから出たものであることが、はっきりしているからである。

○花==特定の花でなく、花一般と見てよかろう。
○清香==清らかな香り。
○幽囚==投獄された人
○赤心==まごころ。


(解 説)
投獄された一年十ヶ月の間に作られた詩である。囚人として獄中にはあっても、人が人たる所以である仁義に悖らぬ以上、少しも恥とすることはない、と己の信念を述べている。
(鑑 賞)
花の香りは、また、人の行為に比せられることもある。金蘭といえば、友情の篤いことをいう。瑞山は、あるいはそのような思いを起句と承句に込めているのかも知れない。
花にとっての清い香りと、人における仁義とが、同じ根のものであるなら、仁義を守る以上、時代は移っても、常にわが心は人に清らかな香りを与え得るであろう。
やはり獄中で作られたものとあって推敲の余裕もなかったためか、詩としては未熟であるが、知己を後世に俟つ心を淡々と述べていて、感慨深いものがある。