〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 
2007/12/29 (土) 初 恋 (島崎 藤村)
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとの見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこころなきためいきの
その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を
君が情けに酌みしかな

林檎畠の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ