〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 
2007/12/29 (土) 椰 子 の 実 (島崎 藤村)
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ
故郷の岸を離れて
汝はそも波に幾月

旧の樹は生ひや茂れる
枝はなほ影をやなせる
われもまた渚を枕
独身の浮寝の旅ぞ

実をとりて胸にあつれば
新なり流離の憂
海の日の沈むを見れば
激り落つ異郷の涙

思ひやる八重の潮々
いづれの日にか国に帰らん