〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 
2007/12/22 (土) 冬 の 螢
冬の風に咲く花びら あなたにあげるわ
別れの想い出に 祈りをこめて
冬の朝に生まれた人は 冬を愛しつづけ
悲しみの その数だけ 人を愛せるわ
ふきやむな冬の風よ 季節がかわっても
冬の螢のように はるかかなたへと とんでゆけ

太陽が空に沈むときあんなに赤くて美しいのは
太陽がさよならを言ってるからだって
誰かが言ったわ
今 私があなたにさよならを言っても
空は赤く染まってはくれないけれど
出来ることなら空いっぱいに
花火を打ち上げてあなたに贈りたい
思い出のひとつひとつに火をつけて
冬の空いっぱいに花火を打ち上げて
あなたに贈りたい
それがあなたへのさよなら
それが私のさよなら

冬の風に飛び立つ鳥は 冷たさを愛し
ふきつける嵐の中へ 身を躍らせる
旅立つあなたの胸に 今 火をともして
悲しみのその数だけ 燃やしてほしい
ふきやむな冬の風よ 季節がかわっても
冬の蛍のように はるかかなたへと とんでゆけ
『愛する人へ 』 加藤登紀子自選詩集 著・加藤登紀子 発行所・株式会社 サンリオ ヨ リ