〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 
2007/12/19 (水) 故 郷 は る か
母の背中で聞いた 下駄の音
はじめて走った あの道
誰かが落ち葉を燃やしているにおい
ほおずき色の夕焼け

やけつく夏の あぜ道
泳ぎわたった川の 冷たさ
ぼんやり赤い夜店の ランプ
祭りの夜の約束

誰にもきっと故郷はある
忘れられない風のにおい
誰にもきっと故郷はある
数えきれない 思い出に

ある日遠くの 街あかり
列車の窓から 見送った
明日がくるのを 待ちきれなくて
昨日の自分に さよなら

誰でもいつか故郷を出る
帰りつく港さがして
誰でもいつか故郷を出る
歩きなれた 橋を渡って

ゆられてゆれて人はいつも
愛を求めて愛を捨てる
ゆられてゆれて人はいつも
愛と別れをくりかえす

誰にもきっと故郷はある
忘れられない風のにおい
誰にもきっと故郷はある
数えきれない 思い出に
『愛する人へ 』 加藤登紀子自選詩集 著・加藤登紀子 発行所・株式会社 サンリオ ヨ リ