〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 
2007/12/19 (水) 夢 幻
罪人のようにかくれて
二人だけで暮らしたいの
この世のそとのどこへでも
つれていってほしいの

あついくちびるを合わせて
息をすることもわすれて
目をとじて二人このまま
死ぬまで抱き合うの

言葉などいらないわ すべてを忘れて
求め合う激しさに 泣きながら夢の中
悩まずに愛せるなら 終わりなどこないわ
さめないで愛の夢 燃えつきて死ぬまで

人はみな恋におぼれて
赤い実の甘さに酔うわ
時の流れもとだえて
求め合う罪の色

けれども時は意地悪な
働きものの確かさで
まぶしい朝をとつぜん
はこんで来るのね

酔いざめの口づけに 何もかも消えたわ
あやしさも激しさも 幻の夢の中

悩まずに愛せるなら 終わりなどこないわ
さめないで愛の夢 燃えつきて死ぬまで

あなたは上衣をかかえて
いそいで靴をはいている
普通の人にもどって
この部屋を出ていく
『愛する人へ 』 加藤登紀子自選詩集 著・加藤登紀子 発行所・株式会社 サンリオ ヨ リ