〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 

2009/02/04 (水) 「蓮の露」 について

「蓮の露」 は昭和五十年七月一日、柏崎市文化財第五十五号に指定されました。タテ二十四センチ、ヨコ十六センチ、和紙を袋とじにした冊子本です。
表紙は白紙です。紙面はかなりいたんでいます。表紙と裏表紙をとり除いて五十丁百頁からなり、一頁から七ページまでが序文で、良寛の略伝と本書を編むにいたった動機等が記されています。
この末尾には 「天保むつのとし五月ついたちの日に 貞心しるす」 とあり、天保六年五月一日に完成したことがわかります。
八頁めはウラ白のまま。
九頁までが本文で、歌数は長歌・旋頭歌・短歌 あわせて合計百五十一首、巻尾に、良寛が臨終近い頃口ずさんだ俳句一首と、良寛自作の俳句八首、そして良寛と貞心尼との合作の短歌一首がおさめられ、最後に 「天保二卯年、正月六日還化・よはひ七十四、貞心尼」 と署名されています。
このうち、五十六頁の三行めまでが純粋な良寛歌集、同頁の四行めからが、良寛と貞心尼との唱和の歌となっています。
本文は釈文 を見ていただければおわかりのように、

師常に手まりをもて遊び給ふとききて奉るとて  貞心尼
これぞこの ほとけのみちに あそびつつ つくやつきせぬ みのりなるらむ
御かへし
つきて見よ ひふみよいむなや ここのとを とをとおさめてまたはじまるを
はじめてあひ見奉りて  貞心尼
きみにかく あひ見ることの うれしさも まださめやらぬ ゆめかとぞおもふ
御かへし  師
ゆめの世に かつまどろみて ゆめをまた かたるもゆめも それがまにまに
という最初の贈答歌と、初対面のシーンとからはじまり、途中数々のエピソードをはさみ、
あずさゆみ はるになりなば くさのいほを とくでて来ませ あひたきものを
いついつと まちにしひとは きたりけり いまはあひ見て なにかおもはむ
といった良寛歌の絶唱を生み、最後の別れをむかえます。
このように、 「蓮の露」 の後半は、良寛と貞心尼との出合いから別れまでを、歌で綴った、清く美しい愛のドラマと見ることも出来ましょう。誰も涙なしでは読むことの出来ない気高い文学だと思います。
『良寛と貞心尼』 加藤僖一著 発行所・考古堂書店