〜 〜 『 寅 の 読 書 室 』 〜 〜
 

2007/06/09 (土) 「皆さん、さようなら・・・・」

田中 みよ (56)
「皆さん、さようなら・・・・、さようなら・・・・」
突然飛び込んできた声に、私は絶叫していました。
「ダメよ!生きるのよ!生きるのよ!」
その声も虚しく、再び応答はありませんでした。
今まで何度も声を交わした真岡の交換台の友からの叫びだったのです。昭和二十年八月二十三日、樺太の泊居の交換台での出来事です。
敗戦の布告と同時にソ連軍の侵入。町中にソ連軍の非道な行動が伝わり不安と恐怖で一杯でした。真岡の友は、最後まで職場を守りソ連軍の辱めにあうよりはと、生産カリで九人が自決したのです。
その後、昨日まで私の隣の席で一緒にキーをたたいていた同僚のAさんが自宅で多量の睡眠薬を飲んで自決しました。
毎日毎日神経をはりつめ、家を一歩出るとソ連兵につきまとわれ、恐怖で一杯だったのでしょう。十七歳の彼女の美しい死に顔に化粧を施し、長い髪をみつ編みにしながら涙が止まりませんでした。
あれから三十九年。今平和な中で当時の交換台で共にキーをたたいた友と懐かしく再会出来るようになりました。
『平和への願いをこめてJ樺太・千島引揚げ (北海道) 編 フレップの島遠く 』
編者・創価学会婦人平和委員会 発行所・第三文明社