勝入は替え馬の曳かれて来るまで、仁王のように立ちはだかって、だんだんはっきりと見えて来る岩崎城を睨んでいた。 すでにかたわらには、片桐半右衛門も、伊木忠次もいなかった。二男の三左衛門輝政も、父の命令が出ると、そのまま城へはせ向かった。 踏み潰して通る方が、あとに兵を残してゆくよりも、容易であろうとハ、はじめから両家老の意見だったのだ。 それだけに、輝政もとっさに父の意見に従ったのであろう。 しかし、替え馬が曳かれて来ると、勝入は、ふっと心に悔いを覚えた。 (筑前が、よけいな道草を、と言わぬであろうか・・・・?) 言われてももはや仕方がなかった。 明けかけた大地では彼の視野いっぱいに味方が城を目指しているのだ。どれもこれも旗差し物に誇りを競って進んでいる。 「早く勝てばよいのだ!」 自分で自分に叫びかけて馬に乗ろうとした時、右足の踵
がズキン! ちはげしく痛んだような気がしたが、そのときには馬は歩みだしていた。 轡をとっていた遠藤
藤太 が、勝入の槍を石坂半九朗に渡して駆けだしたのだ。 「おお味方の先鋒は、もう城門にたどりついたぞ。藤太、あの小川の近くの森まで馬をすすめよ」 たかが三百。それも主の丹羽勘助氏次は留守なのだ。一発でも発砲したということで、充分に武士の意地は立っているので、相手はすぐに降参しよう・・・・そう思っていたのは、勝入ばかりではなく、勝入に城攻めをすすめた両家老の予想であった。 ところが、前線に馬をすすめて来てみると、相手は十文字に門を開いて斬って出ている。 「小癪な奴じゃの、氏重という男は」 勝入はじれ切って、 「半九、槍を!」 小者の手から槍をとって馬上でりゅつ!
としごいていって、再びズキンと右足のかかとの痛みに気づいた。 鐙に力の入ったとたんに、全神経を削
るような激痛だったのだ。 (これはおかしい・・・・!?) 再び走り出そうとする小者に、 「待てッ!」 勝入は声をかけて、 「わざわざ、わしが出るまでもあるまい。待て待て」 と、顔をしかめた。 戦は事実、勝入が出て行くまでもなかった。 丹羽氏重は若さに任せて、討って出たものの、池田勢の一斉射撃にあうと、そのまま城に退いて、門を閉ざす間もなかった。 池田勢はドッと一度に城内へなだれ込んだ。 霧はしだいに晴れていったが、地上は両軍にふみ荒されて、泥田のいうになっている。 勇敢に斬り死にしていった城兵の死屍と泥の上へ、朝の薄陽が射しかけたころには、もはや城内へは生きた人影は見えなくなっていた。 明け六ツに始まった戦が、五ツ
(午前八時) には完全に池田勢の勝利に終わっていたのである。 しかし、そのときになって、勝入は意外なことを言い出した。 |