忠度は、走りつづける馬上から、ちらと、横顔を振り向けたのみで、 「いや、味方ぞ。われも東国武者の一人」 と、偽
った。 だが、六弥太は、耳にもかけなかった。装
いの見事さ、そして、歯には鉄漿
を染めている。源氏武者に、そうした風俗はない。 「先を取れ、押っとり囲め」 ついに、忠度は、敵の中に陥ちた。 だが、彼の奮戦は、見事だった。さいごに、六弥太との一騎打ちとなった。公卿化粧の柔弱と思いのほか、案外な剛力である。 さしもの岡部六弥太も、かなわなかった。六弥太は下に組みしかれてしまい、一刀、二刀、三刀と、白い切っ先を、眸
のさきに見た。そのたび、兜の吹返
しや、鎧の金具が、カチッと火を発し、四たび目の短刀は、かわしようもなく、彼の喉
ぶえに突き立つかと思われた。 せつな、六弥太の郎党が、後ろから、太刀を振り上げて迫り、忠度の右腕を斬り落とした。 忠度は、とび退いた。 そして、砂上にすわると、振り向いて、 「敵の男、首を打て」 と、催促し、西へ向かって、念仏を唱えるような姿勢をとった。 「おん名は」 六弥太が、そばへ迫って訊
くと、 「即仏
、無色 ・・・・名などはもうない」 その一言の声の、なんともきれいで、静かな容子であった事よと、当
の岡部六弥太が、軍 語
というと、生涯、よく人に言ったものであった。 死骸
の箙 から、歌
反古 らしいものも出た。陣中の詠草らしく、その中に、 |