鎌倉殿
も聞召
して、
「世間
狭
き事かな。鎌倉にて舞はせんとしけるに、鼓打
がなくて、終
に舞はざりけりと聞こえん事こそ恥づかしけれ。梶原
、侍共
の中
に、鼓
打つべき者やある。尋ねて打たせよ」
と仰せられければ、景時
申しけるは、
「工藤
左衛門尉こそ、小松殿
の御時、内侍所
の御神楽
に召されて候ひけるに、殿上
に名を揚
げたる小鼓
の上手にて候ふなれ」 と申したりければ、
「さらば祐経
打ちて舞はせよ」 と仰せ蒙りて、申しけるは、
「余りに久しく仕
り候はで、鼓の手色
などこそ思ふ程
に候ふまじけれども、御諚
にて候へば、仕
りてこそ見候はめ。鼓一
拍子
にては叶
ふまじく候。鐘
の役を召され候へ」 と申したりければ、
「鐘は誰
かあるべき」 と仰せられけるに、 「長沼
五郎
こそ候へ」 と申しければ、 「尋ね打たせよ」 と仰せられければ、 「眼病
に身を損
じて、出仕も仕らず」 と申せば、 「さ候はば景時
仕りて見候はばや」 と申せば、 「なんぼうの、梶原
は銅拍子
ぞ」 と、工藤
左衛門
に御尋ねあり。
「長沼
に次いでは梶原
こそ候へ」 と申しければ、 「さては苦
しかるまじ」 とて鐘の役とぞ聞こえける。
佐原
十郎申しけるは、
「時の調子
は大事の物にて候ふに、誰
にかは音取
を吹かせ候はばや」 と申せば、鎌倉殿
、
「誰
か笛吹きぬべき者やある」 と仰せらるれば、和田
小太郎申しけるは、 「畠山
こそ院
の御感
に入りたりし笛にて候へ」 と申しければ、 「いかでか畠山程
の賢人
第一の異様
の者、楽党
にならんとは、仮初
なりともよも言はじ」 と仰せられければ、 「御諚と申して見候はん」 とて、畠山が桟敷
へぞ行きける。
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