── 自然、麻鳥の存在を “ふた股者(またもの) ” と見、悪しざまに、味方の内へ言いふらした。麻鳥は、さっそく、一書を認(したた) めて、義経の陣所へ使いを走らせた。書面には、
── 医の本来は、人間の業悩(ごうのう) を救い、生命の尊さを知らしめるにあり、敵味方の差別視は、医師にはありません。医は、あくまで、一視同仁です。貴嘱(きしょく) を蒙(こうむ) って、拙医事、ただ今、宇奈五ノ岡にあり、あわれなる傷者の治療に微力を傾けつつありますが、願わくば、敗軍の平兵も、併(あわ) せて、この仁施(にんせ) に浴(よく) させたいものと考えずにはいられません。右、医としての念願やみ難く、寛仁なるみゆるしを、伏して請(こ) い奉ります。