「いつもは、源氏の大将軍左馬頭殿の北の方として、一門のなかでも、最も位の高い者として接待した。まして、たまの来訪はこの上なき光栄と喜んでいたのだが、今となっては謀反人の妻子ということになり、どうしたものか」
と伯母は案じて、居留守をつかい、いあに旨答えた。常葉は、 「それでもお帰りにならないことはありますまい」 と日が暮れるまで、じっと待っていたが、誰も声をかけてくれない。常葉は幼い子供たちを連れて、泣く泣くそこを出た。 寺々の鐘の声が日暮れを告げて響き渡り、通りがかる人をとがめだてして里の犬は吠えかかり、その鳴き声が澄み渡るほどの夜になった。柴を折って燃やしている民家の煙が田面を隔てて遠くに見える。梅の花を折って挿頭に挿したわけではなく、それは二月の雪が衣に落ちかかるのであった。尾上の松もないので、松の根に立ち寄って宿ることの出来そうな木陰もなく、人の歩いた跡はすぐ雪に埋もれて、訪ねるべき家もなかった。 |