乳母の女房はじめその場にいる者が、皆口をそろえて、
「大変なお嘆きよう、確かにお嘆きになるのはもっともなことと同情申し上げます。昔から今に至るまで、夫や子供に先立たれた例はまことに数多いが、突然、命を捨てることは確かに稀なことでしょう。昔は、胡塞万里の雲路に鏡の影をかこちわび、燕子楼の霜月に夜な夜な心をいたましむとの詩があります。人間として生まれたからには、愛別離苦、老少不定の理というもの、なにもあなたの限っての不幸ではない。今度の合戦でも、平右馬助殿の女房は、父子五人に先立たれ、左衛門大夫殿の北の方は親子四人に死に別れた。しかし、入水して、命を捨てなさるまでのことはしなかった。皆出家して、姿を変えなさったことである。同じ所へとお思いになっても、冥途に向かった者は二度と行き合うことはない。六道四生、皆別々に別れてしまい、どこに向かうのか定まってはいない。それよりも、早く家にお帰りになって、お子さん方の供養を営みなさい。入水などなさろうものなら、御身の罪障が深くなるだけでなく、入道殿や幼いお子さん方の御菩提をだれが弔うというのですか」
など、あれこれなぐさめて、おそばの者たちは川岸に立ち並んで、北の方をずっと見守っていた。 北の方はうなずいて、 「確かに自分が死んだところで、後世で行き合うことが出来ないのなら、どうしようもない。それでは京に帰ろう」
と言いながら、輿に乗ろうと立ち寄ったので、皆安心して退き、川を渡そうとするまぎわに、走り違って、岸から川へ飛び込んだ。乳母の女房も、 「ああ、おいたわしいこと」
と叫んで、後を追って川に入った。 |