新院
は、寛遍法務くわんぺんほふむの坊に渡らせましませけるが、然しか
るべき人々も候さふら はれず、ただ女房二、三人ばかりぞ候ひける。かき眩く
らす御涙の内なれば、御意こころ
の澄むとしもはなけれども、御歎なげ
きのあまりに、かくぞ思おぼ し召め
し続けける。 |
『思ひきや 身を浮雲うきぐも
に なしはてて 嵐の風に まかすべしとは』 | 『憂う
き事の まどろむ程は 忘られて 醒さ
むれば夢の ここちこそすれ』 |
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新院は寛遍法務の坊にお移りになったが、しかるべき人々がお仕えするわけでもなく、ただ女房二、三人だけがお仕えしていた。涙があふれるばかりで、御心の晴れることはなかったが、御歎きのあまり、かく思い続けていらした。
| (これまで思ったこともない身の上。浮雲の如く頼りなく、嵐の風に身をまかせ、ただようのみ) | (まどろむ間だけはこの憂さを忘れられるというもの。覚めて一瞬、よみがえりくるこの憂さ、夢であってほしい) |
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『将門記・陸奥話記・保元物語・平治物語』 発行所:小学館 ヨ
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