〜 〜 『 寅 の 読 書 室  Part T-U』 〜 〜
あ らす じ

2012/05/07 (月) 信頼、信西を亡ぼそうとする事

信頼卿は、左馬頭さまのかみ みなもとの 義朝よしとも が保元の乱以来、平家に立ち遅れて遺恨に思っているのを知って、謀叛の仲間に引き入れようとし、義朝を呼び寄せて頼みをかけると、義朝は、 「命を捨てても御心みこころ にそいましょう」 と、深く契約して帰っていった。信頼はまた二条天皇の外戚に当る新大納言経宗つねむね別当べっとう 惟方これかた にも語りかけ、院の寵臣であった越後えちごの 中将成親なりちか をも仲間に引き入れた。
こうして時節を待っているうちに、平治へいじ 元年 (1159) 十二月四日、平清盛は息子の重盛以下を引き連れて熊野神社へ参詣した。この時こそと、信頼は義朝を呼び寄せて、 「信西が、それがしを討とうとたくらんでいる。清盛が熊野詣をしているうちに信西を討ち、つづいて平家を亡ぼして、そなたと二人で天下の政治を執り行おうではないか」 と誘い込み、自ら太刀二振りを取り出して与え、また二匹の黒馬に鏡鞍かがみくら を置いて引き出物とし、義朝が帰ったあとから、かねて準備しておいた鎧五十領を、追っかけるようにさし遣わした。

『保元物語・平治物語』 発行所:角川書店  ヨ リ
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