花やかな若武者二騎は、追いつ追われつ奮戦を続けていた。そして、左近の桜と右近の橘の周囲を七、八度も駆け旋
ったといわれている。 また、義平に従って、同時にここへ駆け入った坂東武者十七騎も、重盛の武将、新藤
左衛門、平与
三左衛
門
などの手勢と、あちこちで戦ったいた。 満庭の雪は、血と泥海に化した。そして乱軍となった味方の潮
の中に、重盛の影も揉
まれるように交じっていた。源氏方が、新手
新手
と、人数を加えて来るので、六波羅勢は危険を感じて、待賢門の外へと、続々、退却し始めていたのである。 それを、しきりに号令していたのは、二陣の指揮をしていた老将、筑後家貞だった。 家貞は、大宮の辻
に、馬を休めている重盛を見て、そばへ寄って行った。 「げにも、あなたは平将軍
(貞盛) の再来です。見事な武者ぶり、父の大殿
にお見せしたい程でおざった」 そう賞
めてから、後で、また言った。 「しかし、かねて父君から、しかと、仰せふくめられている二つの計
は、ゆめ、お忘れあってはなりませんぞ。花も誇りも、一時は敵へくれてやるお心こそ持たせ給え」 「じじ。心配すな」 重盛は、また、新手
を率
いて、待賢門へ攻め入った。 義平は、見て、 「兵は、変わったが、将はまた重盛ぞ。こんどこそ、遁
しはせぬ」 平家の難波次郎、伊藤武者、妹尾
太郎などの部下が、射浴
びせて来る矢風の前に立ちながら、悪源太義平は、手をあげて、招いていた。 「出で給え、六波羅の公達
。──
君は、平家の嫡々
、われは源氏の嫡男、相手として、御不足はあるまい。いずれが、天の与
し給うところか、勝負を決せん。それとも、義平の勇に怖
れを抱かれたか」 声に応じて、重盛も馬をすすめ、 「広言を吐かれたな。後に、悔ゆるも及ばぬぞ、悪源太」 「おかしや、義平はまだ、君にうしろ姿は見せていない」 「おうっ、そのことばを、忘るるな」 二騎はまた、雪泥の大庭を、もつれ泳ぐように、戦い戦い奔馳
しあった。 力尽きたか、重盛はまた、駒
を返して、逃げ出した。 その時、六波羅勢すべても、乱れ打つ退
き鉦
の音と、なだれ声のうちに、どっと、大宮表へ退いていた。 「口ほどにもない公達かな、返し給え、卑怯ぞ、重盛っ」 と、義平は、ほかの敵には眼もくれず、栗毛の色の鮮
やかな重盛のうしろ姿を、ひた追いに追いかけた。
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